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イエティはヒグマに非ず ― ヒマラヤ視察最終報告

sagarmatha.jpgいつか東京大学教授らが真顔でイエティを探し求めたヒマラヤを彷徨すること早2ヶ月、このたび、無事に視察を終了いたしました。まず今回のイエティ視察においては、残念ながらイエティの姿を発見することこそ出来なかったものの、イエティ伝説発祥の地であるネパール東部のエヴェレストの麓、クーンブ地方(サガルマータ・ゾーン)を延べ一月程度に渡って探索し、多くのシェルパの方々から、イエティに関する貴重な証言を得ることが出来ました。そして今回、視察全体を通じて最も印象的だったことは、かつて行われた西洋(特に米、英)、そして日本の探検隊による一連の<真顔の調査>によって、現在ではイエティの正体がヒグマであると結論され、またその事実は当然、今では彼等シェルパの知るところであるにも関わらず、彼らの間ではいまだその信仰 ― シェルパにとってイエティは神、或いは精霊 ― が根強く、或いは西洋の探求などまるで無関係かのように、続いているということでした。

参考: 今回のアジア視察写真など

そしてこれは、例えば一昨年、エリア51を訪れた際にぶらり立ち寄ったエイリイン・カフェの中で行われていた<中年男性らによる活発なUFO議論>をいみじくも目にした時にも感じた、逆の意味で期待を裏切る、新鮮な事実でした。つまり彼等現地の人々にとって、伝説は決して過去のもの(=即ち今はただの観光資源)でなく、今なお現在進行形の問題であるということに他ならず、例えば昨年、メキシコでチュパカプラについて農夫らに問うた時に決まって得た反応(=ニヤニヤ)からはほど遠い、予想を遙かに凌ぐ<本気のリアクション>が得られたということです。

従って正直に言うならば、今回、チベット、クーンブというそれ自体過酷な環境の中で、いささか疲れもあったため、前回の中間報告でも述べた通り、イエティ問題については、あるいは<非ノビー的>に、つまり<それとなくやりすごし>、生ぬるい気候のタイに飛んでエイリアンやビーチなどを見に行くつもりでいたわけですが、彼等シェルパの話を伺いながらエヴェレストを目指すうち、薄い酸素で朦朧とする頭とは関係なく(※)、これはむしろ、先達である東京大学教授らに従って、<真顔で挑むべき問題>であると感じるに至ったわけです。

※詳しくは「X51.ORG : イエティに関する諸考察 ― 視察番外編」参照

そしてまず今回の視察において、特に資料として参考にさせて頂いたのは、出発時の記事でも参照した、著名な登山家である根深誠氏による論考です。根深氏はその中で、<雪男=ヒグマ>であるとほぼ断定しており、その結論に対しては、大筋において異論はありません(またこのヒグマ説は著名な登山家であり、雪男目撃者としても知られるラインハルト・メスナーも同様の結論をその著書に記している「My Quest for Yeti: Confronting the Himalayas' Deepest Mystery」)。

参考:ヒマラヤの雪男の謎を解明する/根深誠さんの手記
※以下、特に断りのない場合は、全て上記事から引用

実際、二〇世紀前半における英国や日本の探検隊による数多くの<雪男>目撃について、それがヒグマ、或いは類似した動物の錯覚であった可能性は極めて高く、その顛末については根深氏の論考、或いはメスナーの著書などに示される通りだと思われます(詳しくは後述)。しかしまた、今回、それらの記事に目を通した上で、実際に現地でシェルパの方々に話しを伺った、個人的な、また率直な実感として、何かしこりのような<違和感>が残った事は事実でした。そしてその最も大きな理由は、おそらく、そもそも彼らシェルパの言う<イエティ>、そして日英の追い求めた<雪男>、そしてその正体である<ヒグマ>、これら三者が果たして本当に全て同一視されるべきものであるのかという点について、幾ばくかの疑問を感じざるを得なかった、という点に他なりません。

しかしまた、今回はじめに敢えて強調しておきたいのは、以下はあくまでも、個人的、或いは強く主観的な一つの推測に過ぎないということです。その最も大きな理由は、以下の推測の根拠はほぼ全て、今回私が現地で聞いた一部のシェルパやラマ僧からの証言、或いは視察過程において得た断片的情報を元にしていることによります。そしてこれは特にUMA的、或いは民間伝承的なものについて往々にしてあることですが、例え現地を足で回ったとしても、そもそもが文献でなく、口伝であるこれらの情報について、<一次情報の正確さ>を裏付けることはまるで不可能であり、またイエティに限って言えば、その伝説の伝播範囲の広さから考えても、所謂<正統的伝承>なるものは、もはや存在しない(或いは、し得ない)という事によります(つまり、逸話一つとっても、無数のバリエーションが存在すると言うことです。※8)。

それらを踏まえた上で以下、今回、実際に現地に赴いて得た情報、そしてシェルパからの証言を元に、イエティ、そして雪男に関して得た、簡単な考察をまとめます(写真はイエティが住むというサガルマータ=エヴェレスト。今回視察の最終地点標高5700m付近で撮影)。


イエティ=雪男伝説、その始まりと終焉

まず、如何にして<イエティ=雪男>が西洋、あるいは日本へと伝えられ、そしてそれが如何にして否定されたか。ヒマラヤにおける主な目撃と調査を中心に時系列でまとめると、次のようになる。

※誤解を避ける為に始めに述べておくと、シェルパと言えば、現在では登山サポートを行う専門家といった意味でも通用している。しかし本来は、ネパールのソル・クーンブ地方に多く暮らすチベット系民族の固有名称である。本項においてシェルパ、シェルパ族と記す場合は、後者の意味に限定する。また以下、本項においては、雪男、イエティ、メティ他それらの名称は決して同義語としてでなく、その文脈に従って意識的に区別するものとする。

1.1832年:英国のネパール駐在員B.H.ホジソンが、ネパール北部を探索中、彼に付き従っていた現地人ポーター(荷物運び)らが全身を黒く長い髪に覆われた二足歩行の生物を目撃、ポーターらは恐怖と共に逃走した、という出来事を学会誌に報告した。ポーターらはその生物を<ラクシャス>(チベットの民間伝承における悪魔の名)と呼んだが、ホジソンはそれをおそらくオラウータンではないかと推測した。

2.1889年:英国陸軍L.A.ウォデル中尉がインド北部のシッキムにて、巨大な二足歩行生物の足跡を確認、報告した。後にウォデルはそれを熊のものではないかと推測した。

snowman.jpg3.1921年:英国陸軍C.K.ハワードベリー中佐率いるエヴェレスト探検隊が標高6500m付近で巨大な生物の足跡を多数発見。彼に付き従ったシェルパは、それを<metch-kangmi>のものであると呼んだが、報告の際に誤って<metoh-kangmi>と伝えられた為、英訳される際、<Abominable Snowman(忌まわしき雪男)>という言葉に誤訳された。そしてこの誤訳による形容詞(忌まわしき)のイメージこそが、後に我々が映画や漫画の中に見る<恐ろしく、獰猛そうな雪男>のイメージ(写真)を決定づけることとなった。

※ちなみに<kang-mi>とは、雪(kang)と人、男(mi)を指す。また前者(metch)はチベット語において「嫌な匂いの」といった意味であり、後者(metoh)は、忌まわしい(disgusting)、といった意味である。また「嫌な匂いの」というのは、即ちイエティの伝承においてしばし言われる「イエティが近づくと嫌な匂いがする」とした逸話から生まれた、イエティを指す慣用的な表現であると思われる。

yeti_foot.jpg4.1951年:エヴェレスト登頂を目指していた英国の登山家エリック・シプトンがメンルン氷河(標高6000m付近)に残されたまだ新しい、巨大な二足歩行生物のものらしき足跡を発見、その写真を発表し、西洋で本格的な雪男議論を巻き起こす契機を作った。写真は白熱した議論を呼び、一方では雪男の存在を示す決定的証拠であるとされ、また一方では、単なる普通の生物が残した足跡が、雪解けによって広がったものではないかといった否定が為された(※)。

※この写真については、ヒグマのものであることが有力視されているものの、結局現在に至るまで最終的な結論は出ていない。またこの時に撮影された、もう一枚の有名な写真、雪原を足跡が点々と続く写真は、右写真とは別の時に撮影された偶蹄目のものであることを、同行者であったマイケル・ウォードが、後に告白している。

5.1953年:英国のエドムンド・ヒラリー卿と共にエヴェレスト初登頂を果たしたシェルパのテンジン・ノルゲイが登山中、ヒラリーと共に巨大な二足歩行生物の足跡を見たと証言した。しかし後に、ヒラリーはそれが雪男のものであるかどうか疑わしい、と語ったという。

6.1954年:英国のデイリー・メール紙後援のもと大規模な調査が行われ、再び<イエティの足跡>などが幾つか発見された。しかしこの際、<イエティの頭皮>や<イエティの糞>などが西洋に運ばれて鑑識が行われた結果、既知動物のものであることが判明した(またこの時、デイリー・メール側が制作し、現地シェルパらに配布した「ゴリラ」のような姿の雪男を描いた絵が、後の雪男のイメージを決定したと、根深氏は考察している)。

7.1957年:イエティ問題に注目した米テキサスの石油王トム・スリック後援のもと、本格的な雪男調査隊が結成された。この際、再び雪男存在の証拠とされた<イエティの頭皮>や<イエティの糞>がパリ、シカゴなどに運ばれ、検証がなされた結果、それぞれ鹿とヒグマのものであることが判明し、事実上、イエティ=雪男伝説にひとまずの終止符が打たれることとなった(※2)。

8.1959年:相次ぐ米英からの報告を受けた日本は、東京大学医学部の小川鼎三教授を中心に「日本雪男研究グループ」を結成。学内外からの批判も多い中、毎日新聞社がスポンサーとなって、日本初の本格的学術探検隊六名が勇ましくヒマラヤへと向かった。が、この冬のヒマラヤは記録的な暖冬で雪が全くなく、雪男はおろか、動物の足跡さえ発見出来なかった(※)。

※しかし山を諦めた一行は何となく川へと向かい、まだ生態の知られていなかったガンジスカワイルカを無許可で捕獲、非難を浴びたが、その後のガンジスカワイルカ研究の端緒を開くという奇妙な結末を迎えた。

9.1960年:エドムンド・ヒラリー卿が中心となり、雪男捜索隊が結成された。約一年に及ぶ捜索の後、やはりそれは熊か類似した既知動物の誤認であると結論された。またこの際にも<イエティの頭皮>の調査が行われ、それはヒマラヤに住むヒグマの一種のものであると判定された。

※実際には他にも数え切れない目撃談、調査団の派遣があるが、今回は主要なものに限り、他は割愛。またもちろん、その後も現在に至るまででしばし目撃や、個人レベルでの探索は行われているが、いずれも根深氏のように個人レベルでの探索がほとんどであり、過去のような大規模な遠征は行われていないのが現状である。また日本人の探索で他に有名なものとしては、フィリピン・ルバング島で小野田寛郎少尉(戦後29年間に渡って単身任務を遂行し続けていた)発見の手がかりを作った冒険家、鈴木紀夫氏が1986年イエティ捜索目的でヒマラヤに赴き、ダウラギリIV峰(クーンブとは逆のネパール西部、アンナプルナ側)で遭難死している(遺体は翌年発見)。


雪男の現在

このように、現在では、雪男の存在はヒグマかあるいはそれに似た既知の野生動物が誤認されたものであるとして、ほぼ結論が出た形となっている。またその決定打となったのは、幾度にも渡る著名登山家らの挑戦にも関わらず、その姿をとうとう発見できなかったこと、そして一方、有名な<イエティの頭皮(※2)>や<イエティの手の骨(※3)>などが西洋へ運ばれて鑑識された結果、それがヒグマ(或いは鹿、猿、人など)のものと断定されたことによる。つまり、イエティはその存在が囁かれると同時に、西洋人の眼は主として<未確認動物としてのイエティ=雪男>にのみ注がれ、登山家による相次ぐ探索と科学者による性急な鑑識、即ち生物学的な視点における徹底的な探求が行われた。そして結果、当然のように<イエティ=雪男の実在性>が否定されると同時に、西洋のイエティに関する興味は急速に薄れ、その伝説はあたかも一過性のブームのようにして、忘却されてしまったのである。

また一方、根深氏は、これら一連の西洋の探索を振り返った上で、<雪男>という言葉(※1)それ自体に着目し、新たな見解を示した。それは即ち、1921年次報告における誤訳、そして1954年次調査におけるゴリラの姿を描いたカードによって、現代にも伝えられるゴリラ的な雪男という虚像が生まれ、西洋の探検隊はそれに振り回され続けたということである(そして更に、根深氏は実地における調査の結果、イエティの正体は<ヒグマ>であると結論した)。その様子は根深氏の論考において次のように述べられている。

【引用1】・・・世界最高峰エベレストのあるソル・クーンブ地方のシェルパが「イエティ」と呼ぶ“ヒマラヤの未確認動物”がじつはヒグマの仲間なのだが、それが雪男と訳出されたことによって探検隊はある種の妄想に陥った、ということは考えられないだろうか。

yeti_scalp_resarch.jpgしかし今回、これら論考やイエティ関連文献に目を通し、更に実際に現地での視察を終えた結果、あるひとつの単純な疑問が浮かんだ。それは、かつて西洋の探検隊が<雪男>と呼んだ未確認生物と、その正体である<ヒグマ>が同一視されることは理解出来るものでありながら、しかしシェルパが<イエティ>と呼ぶそれも、果たして本当に<ヒグマ>として万事解決出来うるものなのかという疑問である。そしておそらく、この違和感とでも言うべき疑問が生まれた理由は、まず根深氏の結論と、現地における情報、それらに横たわる幾つかの矛盾を感じたから他ならない。そしてもうひとつ、これまでの多くの探索において、<雪男=イエティの(生物学的)正体>については、主に日英を中心に散々追求が為されている反面、クーンブ地方におけるイエティのもう一つの側面、即ち、シェルパにおいて、一体何故<イエティが神>であるのか、或いはその理由たり得る<イエティの起源>について、ほとんど考察が為されていないという事実にあった(写真はイエティの頭皮を手にするヒラリー卿)。




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