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すべてが過去になる ― クロニック・デジャヴとは

dejavu.jpgTheReporter】デジャヴ ― 新たな経験であるにも関わらず、既にそれを経験したという感覚 ― これは誰しも一度は体験したことがあるのではないだろうか。しかし多くの場合、デジャヴはそれが余りにも一瞬の出来事であることから、心理学者達はその研究を行うことをほぼ不可能であると考えてきた。しかし近年、このデジャヴを瞬間的なものとしてでなく、慢性的に感じ続けている人々が存在することが明らかになったという。そうした人々にとっては、日々の生活における、あたかも全ての体験が、デジャヴ ― 既知/既視感と共にあるというのだ。そしてこの度、このクロニック・デジャヴ(慢性デジャヴ)を持つ人々を対象に、科学者らは新たなアプローチでデジャヴの研究を開始したという。

研究を行うクリス・モーリン博士が、このクロニック・デジャヴを持つ人にはじめて出会ったのは、記憶障害のクリニックであるという。「ある男性がクリニックに来て、自分は前にもここに来たのに、どうしてまたここにいるのか、と言うわけです。そして男性は、自分がクリニックを訪れた経験があると頑なに信じているだけでなく、私と”初めて”あった時の事を微に入り細にわたって語ったんです。実際には、彼がここに来たことなど無いにも関わらずです。」

既知感

そしてこのクロニック・デジャヴは、やがて男性の生活全てにつきまうようになったという。例えばいつからか、彼はテレビやニュースを見ることを止めた。何故ならば、彼の目に映るそれらはただ毎日、同じことを繰り返しているように感ぜられたからである。また例えば外に出るなり、彼の耳は鳥が常に同じ鳴き声で鳴いているのを聞いたという。

モーリン博士によれば、このクロニック・デジャヴの症状は単に新たな経験を既知の経験として錯覚させることに留まらず、それを補足し、正当化する為のもっともらしい情報さえ、患者に与える事が特徴であると話している。「ある男性患者の場合ですが、その患者の妻が、テレビ番組で次ぎに何が起こるかと夫に問うたんです。何故ならば男性はその番組に対して既視感を抱いていると話したからです。しかし、男性はこう答えたんです。”何でそんなことが私に分かるんだ。私は記憶に問題があるんだ!”」

しかしモーリン博士は、こうしたクロニック・デジャヴに苦しむ人々に出会った事がきっかけとなり、これまで謎とされてきたデジャヴの症状に初めてメスを入れることが出来たという。「これまでに我々が得たのはこの症状の博物的側面ですが、それによりこの症状を詳しく検査し、臨床的な問題として扱うだけの方法を知り得る事が出来たわけです。次のステップはこの症状を軽減させる方法を捜すことに他なりません。」

chronic_dejavu2.jpgまたモーリン博士は現在、大学院生のアキラ・オコナー氏と共に研究を続けている。オコナー氏はこれまで、特に催眠術を用いて被験者に(人工的に)デジャヴを発現させる実験を行っているという。オコナー氏の手法は、まず被験者にある単語を覚えさせ、次にそれを催眠術を用いて擬似的に忘れさせる。そして再び同じ単語を見せ、あたかもその単語を見たことがあるという錯覚、つまり人工的にデジャヴ的感覚を創り上げるというものである。そして一連のプロセスを経たのち、被験者らに、デジャヴを感じた時に具体的にどのような感覚を抱いたか、またどの単語を記憶してどの単語を忘却したかといった事を訊ね、そのデータを収集しているという。

現在、これらモーリン博士ら研究グループがリーズ大学で行う独自の研究は、認知感覚フレームワーク(CFF/Cognitive Feelings Framework)と呼ばれている。「認知科学の視座から主観的な体験、感覚を研究することで、我々が日々感じるデジャヴのような体験を明らかにしたいと思っています。またそれは特に老年における認知欠陥などの研究にも役立つと考えています。このクロニック・デジャヴに悩まされている人々は、その症状を医師に相談しようとしないんです。何故ならばこうした”精神病”を示唆するような症状は、特に年配の人にとって、ほとんどタブーだからです。しかし、この症状を持つ初めての患者に会って、我々がようやく発見したのは、正しくその症状を診るならば、実は他にも同じ経験をしている人々が数多く存在しているということです。」

想起・再生・追想

モーリン博士によれば、このクロニック・デジャヴは患者に鬱症状をもたらすため、中には抗精神薬を処方されている者もいるという。しかし博士は、これらの症状が決して妄想などではなく、記憶の機能不全に他ならないと考えているのである。

「我々が取り組むべき課題は、まず、この現象がいかなる意味を持つかということです。我々はこの症状から記憶と意識の関係を調べることが出来ると考えています。またこれら症状を訴える人々において、特に興味深いのは、彼等が実際には経験していない出来事や人の詳細を、具体的に”再生”することが出来るということです。つまりこの事実が示唆するのは、想起するということは、記憶の内容とは別だということ、そして脳が機能する為には異なる二つのシステムが存在しているということを示していると思います。」

人間が過去を想起するとき、側頭葉で反応が起こると言われている。そしてモーリン博士は、この時、側頭葉内では想起という体験と共に、”追想体験” ― 過去における自己の感覚の追想 ― が発生すると仮定し、クロニック・デジャヴに悩まされる人は、脳におけるその部位が、異常に活発化しているか、或いは恒常的に機能しているため、実際には存在しない記憶を創り上げているという推測を行っている。そのため、実際には新たな経験であるにも関わらず、強い記憶の感覚が新たな経験と結びつけられ、一連の症状を引き起こしていると仮説しているのである。

また今後、この研究はヨーク大学の神経画像研究室と共同して進め、同仮説を証明すべき実験を行う予定であると博士は話している。「ある人の主観的な体験を調査する場合、それが他者のそれと比較しうるものかどうかを調査することは非常に重要です。そして今後、神経画像の検査機器を用いれば、人がある主観的な感覚を抱いているとき、他者においても同じ脳の部位が活性化されているかどうかを調べることが可能になります。そして究極的には、人が想起を行っている意識状態にあるとき、どの部位が活性化されているかを特定したいと考えています。」

モーリン博士は今後、リーズ、そして世界で、クロニック・デジャヴを体験している人々のネットワークを作り、研究を進めたいと語っている。「現在、世界中にこの症状を持つ人々を探しています。このクロニック・デジャヴに苦しむ人々は、決して自分が孤独でないことを知り、安心する事がまず必要なんです。そしてまた同時に、我々も彼等を詳しく知ることで、この症状を誰が持つのか、一体何故起こるのか、何が原因なのかを突き止める事が出来ると考えています。」

【参考】日本精神衛生協会 - 高齢者のもの忘れ | 心理学辞典「再生/再認」より

再生と再認の相違については,二つの考え方がある。一つは記憶痕跡に基づく考え方であり,もう一つは検索過程の問題にかかわる考え方である。記憶痕跡の流れでは,再生と再認は基本的に同一であるが,痕跡強度が強い時には再生と再認ともに可能であるが,弱い時には再認のみ可能であるとする。第二の考え方では,生成 = 再認説,符号化特定説,二重経路説が提唱されている。

生成 = 再認説はアンダーソンとバウアー(Anderson, J. R. & Bower, G. H.1972)によって提唱され,検索過程を生成段階と再認段階に分けている。二段階説ともよばれている。再生課題では問題として与えられた情報に基づいて自発的な検索手がかりを作り,有力な候補を記憶表象のなかから探索する生成段階と,この候補項目がターゲット項目と同じであるかどうかを照合する再認段階を必要とする。しかし,再認課題では発見されるべき情報項目が呈示されているので,生成段階を必要とせず,ターゲット項目との照合という再認段階が行われている。また,符号化やテスト時の文脈には影響されない。生成 = 再認説によると,生成段階と再認段階の両方の成功した項目だけが再生される。

符号化特定説は,トムソンとタルヴィング(Thomson, D. M. & Tulving, E.1970)によって提唱された。ある項目が符号化されるとき,その項目だけでなく多くの付随した文脈情報も同時に符号化され,検索時に手がかりとして利用されるとした。手がかりに含まれている情報が項目の記憶表象の一部として符号化されている時に限り,検索の手がかりとして記憶表象の検索を促進する。そのため,学習時と検索時の文脈が一致しているほど検索に成功する可能性が高い。

二重経路説(dual recall routes theory)はジョーンズ(Jones, G. V.1978)によって提唱された説であり,検索には二つの独立な経路が存在している。一つは符号化特定性原理に似た直接アクセスによる検索であり,再認段階が含まれない。もう一つの経路は間接的な生成 = 再認経路で,生成段階でターゲット項目の候補を提案し,再認段階で照合判断がなされる。まず,初めに直接経路で検索が試みられ,それでうまくいかない場合に,間接的な経路が使用されるとする。


【参考2】Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステムより

何かを誤って「見たことがある」と認識する際に常にこのメカニズムが作用しているとは限らない。他の要因、例えば、(※単語の記憶テストにおいて)先に"Snooze(居眠り)"という単語を提示されていたために、"Sleep(眠り)"という単語を見て、「最初のリストにあった」と思ってしまうことはあり得る。両者が似ているために、連想がはたらくからだ。これは先述の「プライミング(※1)」である。既に述べた通り、ある単語を直前に見たことで、脳の情報の「活性化」が起き、関連のある情報も活性化されたわけだ。この「関連情報の活性化」が、誤って「知っている」、「見たことがある」と認識してしまう要因である、とする意見は以前からある。このメカニズムを利用すれば、偽者の記憶を作り上げることも可能だ。(・・・)誤って「見た」と認識してしまう本当の原因が、「関連情報の活性化」だったということが明らかになるかもしれないが、今のところはまだ明確ではない。

※1:プライミングとは、『・・・先行刺激の受容が後続刺激の処理に無意識的に促進効果を及ぼすこと。無意識的に」とは,本人は気づいていないという意味である・・・(心理学辞典)』。同書(MindHacks)においては、例えば"red"という単語を被験者に見せた後で、"gr---"という単語を補完する問題を与えると、多くの人が"green"と答える例が挙げられている。これは"red"という先行刺激によって、脳の中で「色」という関連情報が活性化され、連想=記憶がボトムアップ的に処理される為であるという。

※その他参考は下記関連リンクへ

【関連】X51.ORG : 私はかつて、この光景を見た - デジャヴとは何か
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