【AAG/etc】1979年、カナダの発明家、ジョン・ハチソンは奇妙な”発見”を公表し、世界中に大論争を巻き起こした。ハチソンが公表したその発見とは、”極めて奇妙な電磁気の作用による金属の捻れ、突発的な物体浮遊"などを含む一連の現象である。後にこの発見は発見者自身の名に準え、ハチソン効果(Hutchison Effect)、もしくは短縮してエイチ効果(H-Effect)などと呼ばれ、現在なおその実在を巡り、議論が続けられている。ハチソン効果の引き起こす諸現象はまるで我々の常識を覆すものである。例えば反重力による物体の浮遊にはじまり、金属物質の破砕、物体のテレポーテーション、更には異なる物質 ― 例えば金属と木といった ― の融解といった派手な現象を引き起こすという。そしてハチソンはそれら現象をビデオに納めて公表し、ペンタゴンやロスアラモス研究所、米、カナダの軍高官らの要求でデモンストレーションを行ったと主張したことで世界的に話題を呼んだ。
しかし世間の注目が大きくなるにつれ、それら現象は極めて再現性が低いこと ― ハチソン自身によってさえ確実には再現できないという ― またその映像の粗雑さと突飛さ故に、やがてでっち上げであるとして、一斉に批判の声が上がり始めたのである。
ハチソンはそのヒッピー風の外見からも明らかな通り、確かにエキセントリックな人間である。まるで宇宙船のようなアパートの部屋には、幾つものテスラ・コイル、オシロスコープに信号解析機といった様々な計測器が並び、レーダー、ゲージといった軍が使用する電子機器類が高々と積み上げられている。そして彼の支持者達は - その才能故か、或いはその奇抜さ故か - しばし彼をニコラ・テスラといった天才的科学者に準えるが、事実、ハチソン効果はテスラ・コイルの実験を行っている最中に、偶発的、副次的に引き起こされたものであるという。
1980年代に撮影されたハチソン効果のフィルム
ハチソンの行った奇妙な実験は、テスラ・コイルをはじめとする様々な電子コイル類、そしてヴァン・デ・グラフ発電機(Van de Graff Generator)と呼ばれる独自開発の機械を用いていたが、その詳細は明らかではない。また一体いかなる物理学的現象によってそれら現象が引き起こされたのかさえも定かではないが、ハチソン自身によれば、"一連の現象は、電磁波(スカラー波)がヴァン・デ・グラフ発電機に作用し、零点エネルギーに働きかけることによって、物体の浮遊といった諸現象が引き起こされている"ものと推測しているという。
零点エネルギー(ゼロポイントエネルギー)とは、(古典物理学においては)全ての原子の運動が停止するとされた絶対零度にあってなお、存在するとされる運動エネルギーである。もとは1948年オランダの物理学者、ヘンドリック・カシミールによってその存在が示唆され、現在ではしばし真空エネルギーとも呼ばれる。ヘンドリックの実験では、光や物質がない状態(限りなく零に近い状態)においてなお、ランダムな電子の振動(カシミール効果)が存在することが確認されたが、今なおその正体は明らかではない。しかし一部の"先進的科学者"によれば、 真空状態においてさえ零点エネルギーが存在するということは、本来、我々が居る空間全てが、それらエネルギーによって満たされていることを示しており、これは即ち人類の夢とされる無尽蔵のエネルギー(フリー・エネルギー)の鍵ととなるものとして、その応用研究が進められているのである。
しかしこれまで、ジョン・ハチソンの引き起こした一連の現象は、第三者による再現実験において、一度たりとも同様の結果が観測されていない。そしてそれ故に、現在までこのハチソン効果は単なるでっち上げであるとして、批判の的にされているである。例えばある懐疑論者は、彼の行った実験をトリックとして分析し、天井に電磁石を仕込み、物体の中に何らかの装置を取り付けることで、物体を天井に付着させていたのではないかという推測を行っている。そしてそれを上下逆さまにしたカメラで撮影し、電磁石の力を調節することで、物体があたかも浮遊しているように見せるという方法である。そしてまたカメラには、浮遊する物体をよそに、全く動じない物体 ― 例えば挿し花といった ― が一緒に写しこまれている場合が多く、これはカメラが逆さまであるという印象を与えないための工夫であり、またビデオに映し出されているのはいずれも物体が浮遊する瞬間だけで、その後の状態が撮影されていないことも不自然であるという指摘がなされている(※1参照)。
そして皮肉にも、このハチソン効果が捏造である可能性を決定づけてしまったのは、米国のディスカバリー・チャンネルによる大々的な企画番組だった。その番組では、ハチソンが実際に装置を作動させ、円盤型のUFOに似た模型モデルを浮遊させるという”意味深な”デモンストレーションを行い、ハチソン効果をセンセーショナルに紹介することに成功した。しかしその後、懐疑論者による映像分析の結果、画面左上端にピアノ線が一瞬写り込み、物体を吊し上げていたのではないかという批判が為されたのである(写真)。それを受け、ハチソンは、そのピアノ線を実験装置に使うワイヤの一部であるとして否定したが、当時、すでに十分捏造の嫌疑をかけらていたハチソンの弁解に、もはや聞く耳を持つ者はいなかった。
しかし後に、ハチソンは”自分自身、1991年以降、ハチソン効果をまったく再現出来ていない”として、トリックを用いたことを間接的に認めた。つまり番組側に再現を迫られ、しかしそれが失敗したことによる言わば苦肉の策だったと告白したのである。またハチソン自身、そもそも1979年に初めて起きたハチソン効果自体が、実験の最中に偶発的に発生したものであり、"その現象が確かに存在し、その手法こそ大まかには把握していても、その背景に働く物理学的現象は私自身まだほとんど分からない"と、語っている(また91年以降、ハチソンが実験を再現出来ない理由をして、「何者かに実験室を破壊されたため」と語っていたが、その真偽もまた明らかではない)。
しかしいずれにせよ、この事件により、ハチソンは完全に世間の信用を失い、現在ではハチソン効果は捏造であるとして"一部の物好き"以外には無視されているのが現状である。故カール・セーガンの格言、”並外れた発見は、並外れた証明を要する”に従うならば、ハチソンは確かに、単にビデオをでっち上げ、そして根拠のない主張を行った、ただの詐欺師だと呼ばれても仕方がないのかもしれない。しかしまた、ガリレイやアインシュタイン、そして誰よりハチソンの敬愛するニコラ・テスラのように - その発見のセンセーショナルさ故に - その時代にあってはじめは他の科学者から嘲られた者が、時に科学の大きな進歩をもたらしてきこともまた事実ではある。
そしてハチソン自身は、それら批判には目もくれず、既に20年来に及び、この奇妙な現象を究明すべくガレージでの地道な研究活動を続けているという。また2006年3月には再びナショナルジオグラフィック・チャンネル後援のもと大規模な実験を行い、91年以降初めてとなるハチソン効果の再現に成功したという報告もなされている(参考2参照)。しかし今なお、ハチソンを否定する多くの者達は言うのだ。「確実な再現性こそが、科学の大前提である」。そしてハチソンを支持する数少ない者達はまた、次のように反論するのである。「例えば重力が発見される以前、この世界に重力が存在していただろうか?もちろん存在していた。しかしそれをニュートンが観測し、名前を与えるまでは、誰ひとりとして、その存在を信じることなど出来なかったのではないだろうか?」
【参考1】Hutchison Effect 2006 Remix - Google Video
- Hutchison-Effect "Lost Footage" - Google Video
- WWW.Hutchisoneffect.biz(ビデオ、写真など)
- The Hutchison Effect - American Antigravity
【参考2】ハチソン効果のトリック検証諸説
ハチソン効果を陳腐な特撮であるとする懐疑論者の批判は当然多く、その手法を暴くものとして、次のような仮説がある。しかしいずれの方法も、あるひとつの現象を撮影することは可能でありながら、映像に映し出された現象すべてを説明するものではない。したがって、もしトリックであるとした場合、一種類のトリックだけで撮影されたものでないことだけはおそらく確かである。
A . 逆さまカメラ説 = 実際には物体を天井から落下させ、それを逆さまにしたカメラで撮影し、浮上しているように見せかけたという方法(つまり実際には物体は浮上でなく落下している)。しかし、その後公開された別のビデオでは、飲み物が半分程度入ったままのグラスや、ボトルが、”中の水がこぼれることなしに”浮上している映像が撮影されており、これらの仮説だけでは説明は難しい。また物体の落下速度が一定でなく、単に逆さまにしただけでは撮影の難しいものがある(アイロンや、回転しながら落下する皿など)。これを補う仮説としてはテーブル回転説=つまりカメラを逆さまにした上、物体が置かれた土台を高速で回転させ、遠心力を使って落下のタイミングを調整する方法などがあげられたが、一部はそれで説明可能にせよ、すべてをその方法で撮影することはおそらく不可能である。
B . 箱型セット落下説 = まず箱の中に「実験室風」のセットを作り、その中に(皿などの)物体を設置、そして箱の外縁にカメラを固定し、箱を床に向けて落とすという方法(つまり物体が浮くのではなく、その土台たるセットが落ちるということ)。この場合、確かにAによって解決されない、水を入れたコップを中の水を入れたまま”浮かせる”ことはおそらく可能である。しかしまたこれでもなお、例えばアイスクリームの中身だけが渦を巻くようにして舞い上がっていく映像や、金属と木片が融合する映像などを説明しうるものではない。
【参考3】 量子力学 / カシミール効果 / 還元主義
- Free Energy Page in Japan -Index-
- 真空からエネルギーを取り出せ:日経サイエンス
- フィラデルフィアの怪実験を追え!
- 量子力学の歴史 / 驚異のハチソン効果 / 知の構築とその呪縛
- 実証された空中浮遊するゆで卵〜下村教授と「プロジェクトエッグス」に賞賛あれ!
- 持続可能な社会の青写真 5つの大転換
ボームは「1立法センチメートルの中に我々が知っているすべてのエネルギーより多くのエネルギーが含まれている。」と言い残している。ピーターセン氏はこういうエネルギーを“ゼロポイントエネルギー”と呼んでいる。空間からエネルギーを取り出せるといった考え方は、物理学の鉄則中の鉄則であるエネルギー保存則をひっくり返すような印象があるため、ほとんど科学の現場では無視され続けた考え方であり、一部の“ニューサイエンス”と呼ばれる人たちの間でのみ扱われてきた。今まで“オカルト”的な言葉で片付けられてきた領域にもその調査を進めているようになったことは興味深いことである。あと3〜5年くらいでこのエネルギー源の実用化の見込みがあるという。そうなれば現在のエネルギー源である化石燃料、ウランなどのように遠路から運び、廃棄物や多くの問題を出しながら使われるものが作り出す世界とはまったく異なる様相を呈すだろうという。
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