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体が"腐った魚"の臭いに ー 魚臭症候群とは

fish_odor0.jpgABCNews】元モデルにして、ファイベータカッパ(※)にも名を連ねる、才色兼備のカミーユ。そんな完璧にも思える彼女には一つの大きな悩みがあった。それは彼女の体から"死んで腐乱した魚"の臭いがするというものである。かつて教師をしていたこともあるカミーユは言う。「私が教えているとき、生徒は誰も私に近寄ろうとしませんでした。そしてこう言うんです。"おい、腐った魚の臭いがしないか?"。生徒からはミス・フィッシー(魚女)と呼ばれていました。」そしてカミーユ(仮名)は続ける。「私の体臭は、"とてもヘビーで、強烈で、暗くて、陰惨な臭い"がするんです。私自身どうして体がこんな臭いを発するのか分かりません。とにかく、私がいると、部屋全体をそんな臭いで満たしてしまうんです。最近では劇場全体が私の体臭でいっぱいになったこともありました。」

そして彼女は、憧れた教師の仕事さえ、苦痛になってしまったのである。「とにかくいつも臭いのことばかりが気になってしまうんです。"私臭ってるかな?誰かが臭いって言ってなかったかな?誰か私のことを笑ってなかったな?"」

※Phi Beta Kappa = 米国の大学で優秀な成績を収めた学生のみが加入出来る歴史的な会員制友愛会

隠せない臭い

カミーユが、臭いのためにいかなる努力をしようとも、それはまるで徒労に過ぎなかった。例えばシャワーを浴びたり、幾種類もの香水を振りかけようと、その強烈な"魚の腐乱臭"の前には、全てかき消されてしまうのだ。そうして彼女はこれまで既に30年以上、この奇妙な症状と戦い続けている。またこの症状のせいで彼女は自尊心を失い、そして失職さえしたこともある。彼女は、この余りにも悲惨な現実に耐えきれず、パニックになったこともあるという。

「教室中の窓ガラスを開け放って、教室中に幾台もの扇風機を置いたことさえありました。学校からの帰り道、ひたすら泣き続ける日々だったんです。」そしてそんな苦痛は、当然、彼女の子供時代さえ目茶苦茶にした。「ある日、先生が私に毎日ちゃんとシャワーを浴びてる?と聞いてきたんです。それから彼女は私を教室の隅に座らせました。他の生徒達は私のことをフリークスと呼んで、"死んだ魚"だとか"馬糞"の臭いがする、と言いました。」

我々人間は、本能的に、死んだ魚や腐った食べ物の臭いを忌避すると言われる。それは腐った食べ物や、危険な食べ物をうっかり口にしてしまうことを避けるためである。しかし我々が忌み嫌うその腐った魚の臭いが、まさにカミーユの体臭なのだ。しかし更にやっかいなのは、彼女自身はその体臭を感じることが出来ないということである。そのため、もし何かのタイミングで体臭が酷くなったとしても、彼女はその事実に気付きようもない。そしてそんな特異な状況が、彼女の幼少期に数々の屈辱的経験を与えたことは想像に難くない。「こんなこともありました。中学校のとき、カフェテリアで食事をしていたらたくさんの生徒達が私のところにきて、私を隅っこに追いつめました。そして彼らはみんなでツナサンドウィッチを私の方に投げつけてきたんです。」

社会からの拒絶

fish_odor2.jpgカミーユが大人になってからも、そうした"拒絶"は続いた。彼女の最初の仕事は、信用組合における出納係だった。「上司が私のところにきて、私の周りに香水を撒くんです。それでも彼らは私の体臭に耐えきれず、結局私をドライブスルーセクションの方に配置したんです。そこは他の社員のオフィスから隔離された所でした。」彼女にとっては、社会的生活の多くの場面が、ただただ苦痛であるという。例えばある男性と親しくなろうとも、彼と親密になるに連れ、彼女の中には彼を突き放さなければならないという感情が生じてしまう。"彼はもっと他のすてきな女性といるべき"、そう感じてしまうのだという。「いつも、自分のことをフリークスだと思って生きてきました。自分は人間でないと、思えてしまうんです。」そうしていつしか、彼女は社会から孤立していった。今では、絶対的な必要性がない限り、外出することさえ稀であるという。

魚臭症候群 - トリメチルアミン尿症

カミーユはこれまで、この謎の症状を治療すべく、様々な医師のもとを訪れている。内科から産婦人科までくまなく尋ね、症状を診せたがが、医師の誰一人としてその原因を明らかにすることは出来なかった。そして彼女は憧れていた教職についたのも束の間、ストレスを理由に自ら退職した。彼女は自殺を考えたという。「本当に、どこにも、救いも希望もなかったんです。皆に疎まれることにも、フリークス扱いされることにも、もううんざりでした。だから自殺しようと思ったんです。」そして重度の鬱症状になり、彼女がいよいよ自殺を考えたとき、かすかな希望の光が差し込んだ。インターネット上であるウェブサイトを見つけたのである。

「インターネットで、"魚の 体臭"と打って検索しただけでした。すると"トリメチルアミン尿症(trimethylaMinuria)"という言葉を見つけたんです。そしてこう書かれていました。"この症状は体からトリメチルアミン(trimethylamine)という化学物質が分泌されることで発生する。そのため、死んだ魚のような臭いがする。"そして検索結果から"TMAU Foundation(魚臭症候群財団※)"と呼ばれる組織が存在することも分かりました。」

※TMAU Foundation = TMAUとは、"trimethylaMinuria(トリメチルアミン尿症)"を短縮したもの。魚臭症候群自体は、"Fish Malodor Syndrome"とも呼ばれる。

TMAU財団の設立者であるサンディーもまた、カミーユと同様の症状に苛まれていた。しかし彼女はカミーユと異なり、大人になってもしばらくの間、その臭いが自分の体臭であることに気付きさえしなかったという。例えば以前、ニューヨークに暮らしていたサンディーは配管工を呼び、風呂場の修繕をお願いした。「どこかから酷い臭いがしたんです。私はてっきり、シャワーに何か問題があるのだと思っていました。」しかしそれは間違いだった。その"悪臭"は、紛れもなく彼女自身の発する体臭だったのである。

そしてあるとき、オフィスの悪臭を訴え続けた職場の同僚達に、彼女はこう告げられた。「サンディー。君にどうしても言わなければならないことがある。この悪臭は、君から来ているんだ。」そうしてやむなく職場を離れた彼女は、それまでの貯金と余りある時間の全てを注ぎ込み、この謎の体臭の原因を探りはじめたのである。「大体27000ドル以上(300万円以上)をかけました。」彼女は言う。そして症状が不明のまま、彼女は"8種以上の全く必要がなかった手術"を、受けたという。しかしあるとき、歯科医が彼女の口臭からそれが魚臭症候群によるものではないかと考え、彼女を米フィラデルフィアにあるモネル化学研究所のジョージ・プレティ博士を紹介した。

カミーユの症状

プレティ博士はこれまで世界に600ほどしか例のない、この奇妙な症例の専門家である。博士によれば、この症状は先天的な遺伝病であり、酵素の不完全な代謝によって発生するTMAと呼ばれる物質が体内に蓄積されることで、"死んだ魚"の臭いが引き起こされるという。「TMAは揮発性の化学物質で、それは主に肺を通じて外に出てくるんです。汗や唾と混ざり合い、体の至る部位から分泌されます。そのために、この症状を持つ人々の体からこうした臭いが出てくるわけです。」博士によれば、原因となるTMAの蓄積は、卵や豆、牛乳、チーズ、パン、そして魚と、あらゆる食物によって生じる可能性があるという。「摂取する食物の組み合わせによって患者の体臭は変化するんです。」

そしてプレティ博士がカミーユを診断した結果、彼女のTMA値は非常に高い数値を示しており、数少ない魚臭症候群患者の中においても、極めて重い症例であることが明らかになったという。そのため博士は現在、彼女の食事を管理し、TMAが生成されにくい食事を摂らせることで、臭いが発生することを最小限にとどめる治療を行っている。しかしその結果、彼女はそれまで食べてきた普通の食事はほとんど摂ることが出来なくなった。またそれ以外にも、彼女は葉緑素の薬を飲み、シャワーを頻繁に浴びるといった習慣を続けることで、体臭が発せられることを抑止しているという。

「今は色々なボディシャンプを試し、体をなるべく強く擦って洗うようにしています。また二種類の制臭剤と、たくさんの香水も使っています。家を出る前には、衣服の上から下までファブリーズを吹きかけて、足とソックスにも制臭剤を吹きかけているんです。」

孤独

カミーユはサンディーと出会うまで、一人として自分と同じような症例を持った人間に出会ったことはなかったという。つまりそれまで、彼女の症例は、世界で彼女一人だけがもつ"謎の奇病"だったのだ。しかしサンディーもまた、はじめは孤独だった。カミーユと知りあうなり、彼女はそれまで自分が辿った"全く必要のなかった処方"を見せ、決して症例が彼女一人だけのものでないことを知らせたという。

サンディーは今後、TMAU財団の活動を通じて研究資金が少しでも多く集まり、いつかこの奇妙な症状が治療されるという希望を抱いている。そしてカミーユもまた、TMAU財団の活動を通じて、少しでも多くの医師や、世間の人々に知ってこの病気の存在を知ってもらい、ー かつてカミーユ自身がそうだったように ー "変わった"子供たちが、無知のせいで嘲られることを、少しでも無くしていきたいと話している。

【参考】魚臭症候群,魚臭症,トリメチルアミン尿症,Trimethylaminuriaの日本におけるホームページ
- メープルシロップ尿症 - goo ヘルスケア
- わきが多汗症相談室 : 魚臭症候群(トリメチルアミン尿症)

同じ代謝異常と言っても、「トリメチルアミン尿症」の場合には、体から「魚臭のようなニオイ」を発すること以外にほとんど心身障害を伴いません。またニオイそのものも生まれてすぐではなく、幼児期以降や中には青年期を過ぎたころから徐々に強くなることもあり、周囲からは、「たかが体臭」として問題にされずに過ごされることも多いのです。このことが、今まで魚臭症候群が、医学界で、あまり話題にも研究対象にもならずに、「無視」されてきた理由です。しかしです。このHPでは何度も言いましたが、「臭いの悩みは、自己存在にかかわる悩みであり、社会性の障害をもたらす」本人にとっては重大な問題のです。


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2006.08.15

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