X51.ORG : "四足歩行する家族"― 逆進化説を巡って議論に
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"四足歩行する家族"― 逆進化説を巡って議論に

four_legs_family.jpglse.ac.uk/WScience】先月はじめ、トルコの医科大学研究者があたかも動物のように”四足歩行する家族”に関する研究報告を行い、国際神経科学論文誌(International Journal of Neuroscience)に”人類退行説”として主張、掲載したことで、科学者の間で議論が巻き起こっているとのこと。トルコ、アダナのククロヴァ医科大学ユネル・タン博士はこの家族の症状を自分の名に準え、”ユネルタン症候群”と命名し、人間に逆進化(退行進化)をもたらす遺伝子を発見したとを論文で述べている。ユネル氏によれば、この症候群の ― 現在知られるおそらく唯一の ― 患者であるトルコの家族(家族のうち子供達5人)は、両手両足を使って歩き、更に独自の原始的な言語を用いてコミュニケーションを行っているという。またその姿は人間の数百万年に及ぶ進化過程をあたかも遡行するものであり、人間の祖先である類人猿に似ていると、氏は報告している。

ユネル氏は更に、実際に家族のうち1人の女性が両手足で歩く姿をビデオに撮影し、論文のサイトに掲載した(参考:ビデオ/mpg)。

今回、ユネル氏が提唱した逆進化というコンセプトは、必ずしも新しいものではない。例えばこれまでにも動物において、そうした現象が見られることが指摘されている。しかしこれら現象を巡ってはいまだ議論が続けられており、確証たる例はない。

類人猿的特徴

ユネル氏は、今回の家族のケースは間違いなく先祖返りの現象を証明するものであり、これら突然変異の現象は、科学者らに人間の祖先に関する新たな研究を促すものであるとしている。

uner_tan_syndrome3.jpg”この症候群の患者達は、興味深いことに、人間の祖先の特徴を表している。(・・・)そしてそれは、おそらく人間の逆行的進化である(・・・)そしてこの家族はおそらく人間の進化過程の生きたモデルである”。論文内でユネル氏はそう結論している。

今回の研究論文は、ユネル氏が編集を務める、三月刊行の国際脳神経科学論文誌(International Journal of Neuroscience)に掲載されるという。ユネル氏はその中で、これら突然変異は、”四足歩行から二足歩行への進化”の研究に関して新たな光を投げかけるものであり、また、精神の発達についての画期的な研究になると、記している。

”この症状を示す子供達は、19人の子供を持つ家庭で生まれた。そしてそのうち五人の、一四歳から三二歳の人々が、現在両手両足(足の膝は伸びている)で歩いている。(・・・)彼等は立つことも出来るが、それは極僅かな時間で、膝と手を曲げながら立っている。”ユネル氏は最近、神経化学論文誌に発表した別の研究論文でそう述べている。そして次のように続ける。

”患者達は原始的な言語を使い、互いに百語たらずの独自の言語で喋っている。両親はその言葉を部分的に理解することが出来る。彼等は精神遅滞の症状が見られ、例えば1から10まで数えることが出来ない。彼等は時間と空間を認識することが出来ない。例えば彼等は、自分たちがどこに暮らしているのか(村、地区、国)を理解することが出来ず、季節や日時、時間を認識することも出来ない。しかし非常に強靱な腕と足を持っている。”

”彼等の座っている姿は丁度猿に似ている。頭部を真っ直ぐ上に保つ事が出来ず、首を曲げて頭部は前に突き出している。また頭を上に向けることが出来ない。この首と頭部姿勢の特徴は、我々に近い生物、例えばチンパンジーに近いものである。”

ユネル氏によれば、この症状の患者は多くの霊長類と同じく、特徴的なシークェンスの動作を行うという。それはまず足が地面につき、ついで反対側の手が地面につく、といったパターンである。そして”彼等は正確に、素早く、バランスを崩さずに足を使って歩く。”


FoxP2・言語遺伝子

またユネル氏によれば、氏はこの症状の原因として、染色体17Pというゲノム領域における欠陥を発見したという。同領域は人間とチンパンジーにおける最も大きな違いがあるとされ、最近では他の科学者の研究においても、染色体17pが二足歩行と関係しているという報告がなされている。

ユネル氏の研究は、2002年に報告された突然変異研究、FoxP2と呼ばれる遺伝子の変異が、会話や文法の問題に影響するという研究報告を想起させるものである。この発見は、”言語遺伝子”の存在を示すものとして、科学者の間で大きな話題を呼んだ。またこのFoxP2を変異した患者は、調和性においても問題を抱える傾向があったため、科学者の間では、調和性と言語の関係という視点からも様々な議論がなされた。しかしこれらFoxP2の変異患者らの間では、今回ユネル氏が発見したような、二足で立つ事に問題があるといった事例は報告はなされていない。

ユネル氏は次のように記す。”今日、一般的に科学者の間において、二足歩行への進化は人間の進化過程における最も重要な事件であったと考えられている。何故ならば、その進化によって、両手が自由になり、投げる、道具を作るといった技巧的な動作が可能となったからである。またそれがきっかけとなり、意識の進化をもたらした可能性もある(確かに、今日では、多くの科学者が意識は人間にのみ限定されたものではないという説を支持しはじめているが)。”


漸進進化・断続進化

”現在の進化論において、人類の祖先として二足歩行を始めたのは、今から160万年前にアフリカ等に存在したホモ・エレクトゥスであると言われる。またホモ・エレクトゥスは既に原始的な言語を獲得していたが、実際に言語が発達したのそれから更に後で、今から約4万年前のことである。”

uner_tan_syndrome2.jpg今日、一般的に進化は、ある環境に適応出来なくなった遺伝子が淘汰され、適応した遺伝子が広まることで発生すると考えられている。このプロセスは自然淘汰と呼ばれ、幾世代かを経る漸進的な変化の中で、種そのものの遺伝子プールを変異させ、最終的には種に大きな進化させると言われる。

しかし一方、断続進化説と呼ばれる仮説では、進化は漸進的なものではなく、ある段階で突然発生するものであると考えられている。そしてユネル氏の主張するユネルタン症候群は、この仮説の上に立つものであるという。何故ならば、これらの症状では、ある特徴が突然発現し、一方である特徴は消滅するからであり、おそらくその原因は何れか特定の遺伝子、または関係する一群の遺伝子の変異によって引き起こされていると考えられるからである。しかしいずれにせよ、ユネル氏のいう、逆進化という仮説は議論を呼ぶものであることは間違いがない。

逆進化(帰先遺伝あるいは先祖返り)は、有機体がかつて失った能力や生態的構造を再び得ることを指す。そしておそらくその原因は、ある遺伝子が不必要になり、非活性状態に入った場合でも、実際にはその遺伝子が完全に失われたわけではなく、再活性化されるためであると言われている。これは2003年10月、米ユタ州のブリンガム・ヤング大学のメーガン・ポーター、キース・クランドールらが行った研究にも幾つかの例が示されている。例えば、暗い海底に生息していた魚は、既に目を不必要なものとして失っている。しかし、ひとたび浮上しはじめると、失った目を再び発現するのである。

ただしメーガンらは、同論文において、それら幾つかのケースをもってしても、逆進化 ― 祖先の遺伝子状態へと遡行すること ― の存在を証明しうるものではない、と認めている。何故ならば、これら一見して逆行的進化に見える現象は、その実、新しい遺伝子が、古い遺伝子(つまり過去に失われた遺伝子)と似た機能を発現させた可能性も否定出来ないからである。


歯を生やした鶏

しかしまた、確かにこれまで行われた幾つかの詳細な研究で、逆進化の存在を支持するものもある、とメーガンらは続ける。それは例えば、新しく発現した筋肉や神経のパターンが正確に過去のものと一致する場合などである。

また最近では、人間の操作によって、これら逆進化的な現象を引き起こすことに成功したというケースもある。今年2月21日、生物学論文誌(Current Biology)に発表された研究によれば、ニワトリが歯を生やしたという報告がなされ、話題を呼んだ(参考:Mutant Chickens Grow Teeth)。現在、歯を生やした鳥はいない。しかし恐竜であった鳥の先祖は、確かに歯を持っていたのである。研究を行ったウィスコンシン大学のマシュー・P・ハリス博士によれば、この歯を持つニワトリは、発達過程のニワトリの胚の嘴の部位に操作を行うことで誕生したという。またこの研究結果から、ハリス博士らは、”これはニワトリがいまだ歯を形成する遺伝情報を保持しているということを示し、しかしそれは現在のいかなる鳥にも似ない、むしろ最も彼等の祖先に近い、ワニの歯に良く似たである”と記している。


※その後、この研究内容を巡っては、科学者の間で、遺伝的問題ではない、精神障害である、デタラメである、といった様々な批判がなされている模様。また研究報告を受けて、英ケンブリッジ大学の科学者らが研究に乗り出して調査を行い、今後BBC放送でもその内容が放映される予定であるとのこと(下記リンクは英科学者らの研究報告/PDF)。

- Philosophy of Natural Science


【参考】会話・言語と遺伝子(FOXP2)
- 人類の祖先についての最近のお話
- ナマコの防衛行動とダーウィン淘汰の検討


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