心霊治療という言葉を聞いた事があるだろうか。ブラジルやフィリピンに今も多いとされる心霊治療(心霊手術)とは、例えばメスや親指といった限られた道具だけを使い、患者にまるで痛みを与えることなく、様々な病を治療する呪術的な民間療法である。心霊治療師の噂を聞きつけた欧米の医療専門家は、過去50年に渡って彼らのもとを訪れ、調査を続けてきた。しかし、そこで一体何が行われているのか、そして何故、患者達は実際にこの手術で病を克服してしまうのか、欧米の医師達は首をかしげるばかりである。例えばある心霊治療師は、どこにでもある普通のキッチン・ナイフを使い、全く麻酔を使わずにいとも複雑な外科手術をこなしてしまうという。例えば彼らと患者のやり取りは次のようなものである。
治療師(D)「目を閉じてください。何か感じますか?」
患者(P)「分かりません、何かが起きていることは分かります。」
D「具体的にはどのように?」
P「丁度、誰かが熱いワイアで私の皮膚に触れているような感覚があります。」
D「痛みますか?」
P「全く痛くありません。不思議な感覚です。まるで冷たい炎の中で氷が燃えているような感じです。」
ある別の心霊治療師は、治療を求めて欧米から訪れたアメリカン・フットボールのコーチ、ハットという名の男性の前に立つと、いきなりハットの腹部にナイフを突き刺した。そして同時に傷口に指を突っ込み、何か脈打つ物体をハットの傷口から取り出したのである。その間、ハットはただ目をつぶり、声をもらすように唇が震えていた。
しかし不思議なのはその傷口である。このような大胆な外科手術にも関わらず、ハットの腹部からは一滴の血も流れていないのだ。動揺するハットをよそに心霊治療師は黒い糸を取り出すと、傷口を1、2針縫ってあっという間に治療は終了した。「しばらく横になっていなさい。二日後には抜糸出来るでしょう。」そう言われると、ハットはまるで酔ったように、少しよろめきながら、部屋を後にした。
入れ替わるようにして部屋に現れた次の患者は、眼に傷を持つ女性である。治療師はまず彼女を椅子に座らせると、おもむろに縫い針を取り出した。そして次の瞬間、その針を彼女の目の角に突き刺したのである。針が半分ほど突き刺さると、まるで眼の中から何かを掘り出そうとするかのように、治療師は針を回し始めたのだった。
・・・この一見するとおぞましい光景は、心霊治療師らの診察室においては、極めて一般的な光景なのである。
心霊治療師という職業が初めてメディアの脚光を浴びたのは1958年である。ホセ・アリゴー(本名ホセ・ペドロ・デ・フレイタス・写真)と呼ばれたその治療師は、ペンナイフを使い、ある患者の身体から悪性腫瘍を取り除き、大きな注目を浴びた。彼が治療したその患者とは、元大統領の娘だったのである。この手術成功の知らせはメディアに大々的に報じられ、彼の手術を受けようと、病気を抱えた多くの人々が彼の家に殺到し、アリゴーは一躍メディアの寵児となった。テレビ局のカメラマンが彼のもとをひっきりなしに訪れ、手術の一部始終は幾度となくテレビで放送された。彼の治療を受けた患者は一様にしてこう言うのだ。「全く痛みはなかった!」こうして元大統領の娘を救った功績から、アリゴーの活動は国民的な認知を得た。その後不慮の交通事故で死亡するまでの間、彼は世界的に名を知られたはじめての心霊治療師として活躍したのである。
現在では、パチタ(実名バーバラ・サラス)と呼ばれるある著名な女性治療師が存在する。彼女は古く錆び付いたナタで患者の治療を行う事で知られ、手術前に手を洗うことさえしない。しかし不思議なことに、治療を受けた患者のうち一人として、感染症になったものはいないのである(アリゴーも手を洗うことはなかったといわれる)。
ブラジルでは今だ至るところにこの心霊治療師らが存在している。彼らは今でもその独特の手法 ― ある者はナイフ、ある者はメス、またある者は親指の爪 ― を使い、麻酔を用いることなく、患者達を無痛治療しているという。これら心霊治療師は現在なお、欧米を中心とした医療関係者から好奇心と猜疑心の眼差しを浴びている。白昼堂々、テレビの前ですら行われるその大胆な治療がいかにして患者を救うのか。その謎は、今だ何一つ明らかにされていないのである。
【参考1】心霊大全―20世紀の超自然現象世界(中岡俊哉 著)より
(註:ホセ・アリゴーについて)・・・アリゴーはもともとレモン農園を経営していたが、治療能力が評判となって、連日数百人もの患者が門前に列をなす状態となっていった。その様子に医師たちが、医師免許もないのに病気治療をするのは法律違反だと騒ぎはじめた。その結果、治療した患者たちからのクレームや訴えはなかったにもかかわらず、アリゴーは三回も投獄されている。
あるとき、元大統領の身内に原因不明の病気に倒れた人がいた。その病気をアリゴーが心霊療法で治したことで、それ以後、彼は半ば公然と治療活動が行えるようになったという。アリゴーの行う治療は正確なものであり、非常に効果があるということが認められた中には、アルゼンチン上院議員夫人の皮膚ガンと子宮ガンを完治させたことも含まれている。これはサンパウロの新聞にも報じられ、やがてアリゴーの名は世界的に知られるきっかけとなった。
前述したとおり、私はブラジルに赴き、アリゴーに会って、実際にその治療を受けた経験がある。右足にできていた、10円硬貨ほどの大きさの二つのウオノメを切除してもらったのだ。実は私のそのウオノメは、かなりしつこいものであった。病院でいく度も切除手術を施してもらっていたのだが、手術から一年も経たないうちに再発してしまうのだった。経験した人なら分かると思うが、ウオノメというのは、痛みが強く、私の場合には歩行に支障をきたすほどひどいものであった。その頑固なウオノメをアリゴーに見せると、彼は傍らの竹製バスケットの中から一本のあまり手入れの良くないメスを取り出すと、消毒もせずにグサリと突き刺した。そして、たちまちウオノメを抉り取ってしまったのだ。足の裏に、大きな穴がぽっかりと二つ空いていた。ところが、足には何の痛みも感じなかった。麻酔などしていないにも関わらず、である。さらに私は手術後、すぐに靴を履いて普通に歩くことができた。
・・・アリゴーの「心霊手術」については、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、スイスの各国からなる医師団が再三にわたって調査を行った。その結果、アリゴーの治療の成果を認めざるを得なかったという。
【参考2】心霊治療は私の癒し | 韓国キチガイ心霊治療を見よう | フィリピン心霊治療体験記
【参考3】マン・オン・ザ・ムーン
※ジム・キャリーが1970年代のコメディアン、アンディ・カウフマンの人生を演じた映画。カウフマンは肺ガンを患い、フィリピンにて心霊手術を受けたことでも知られている。(が、結局肺ガンで死亡している)。またこの時代、カウフマンの他にも心霊手術を受けたと言われる著名人は多いという。
- Andy Kaufman's Psychic Surgery:手術時の様子
【他Amazonより】フィリピンの心霊手術
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